2009年02月27日 学会論文発表コーナー
グループホーム希望の家は、平成16年神戸に開設した2ユニット18名の認知症の方の生活支援を行っていく場である。その人らしさを表出し、自己決定ができる自立支援を日々行っている。各人にとって居心地の良い環境を整えていくと同時に、認知症になっても、一人の人として、地域社会との関わりは生きていくうえで重要だと考え、地域とのつながりを密にしていった実践をご報告させていただく。
平成18年から開催した地域運営推進会議をきっかけに、希望の家の花壇の手入れをしてくださる園芸ボランティア活動が、昨年4月から月2回のペースで行われている。活動の目的は、地域の方と入居者の方との交流を図る。地域の方に園芸活動を通じて、認知症への理解を深めていただく。地域の方に希望の家のケアを知っていただくことの3点である。
実践したことは、
その結果としてまずボランティアの変化があげられる。
活動回数が増えていくと、ボランティアの方から、次のような発言が聞かれた。
「認知症の人って何もわからない人だと思っていた。」「昔の歌もよく知ってるんだね。」「次は何の花植えようか?て聞いたら、“グラジオラス”て花の名前言ってくれてびっくりした。」「おひさんにあたって、洗濯干して、ご飯作って、普通の施設と違うね。私も年取ったら、ここに入るわって嫁に言ったの。」時には入居者の方が、「この庭は私が全部作った。松の木植えてたのに盗まれた。」とおっしゃっても「松の木植えてはってんね。」と話をうけいれてくださる様になる。又、入居者の土を掘り起こす慣れた手つきに感心される。 実際接していくことで、“認知症の方”と接する戸惑いから、一人の人と人との関わりをしていかれるようになっていった。ご自身の得意とする園芸を通じた活動から、自然に入居者との接し方を身につけられていった。
次に入居者の方の変化をあげる。
土起こし、苗つけなど昔とった杵柄を発揮することで、達成感をもたれる。入居者のお名前を呼んでもらい、一緒に作業をしていくことでグループホーム以外に顔なじみの関係を徐々に構築しつつある。入居者全員が、きれいになった花壇に出る機会が増え、活動性が広がった。五感を刺激することが出来た。
次に職場復帰したスタッフと共に生後4ヶ月の男の子が、グループホームで入居者の方と同じ空間、時間を共にしていった実践をご報告する。私たちは、グループホームを小さな社会、共同体として捉えている為、障害者、こども、大人いろんな方がいる社会の縮図だと考えている。そのため、活動の目的は、グループホーム内に赤ちゃんがいる環境を提供して互いに助け合う関係を形成していくことである。活動は、グループホームの中に赤ちゃんが自然にいて、最年少ボランティアは、泣いたり笑ったり、そのままをしてもらい、入居者の方々はその姿を見て様々な工夫をしながら、1日1日をともに生活していった。
一瞬一瞬の入居者の方の表情が、皆さん、輝いているのが印象的だった。また、むずかる赤ちゃんをあやしきれず、涙される入居者もいらっしゃった。母性本能を刺激し、自分自身の力不足を認識し、ふがいなさから涙が出たのだと思われる。また、ご自身のそれぞれの子育ての流儀を披露し、泣いたときはこうしたらいい、寝かすのにはこうしたらいいと、話がどんどん盛り上がっていった。抱きたい、抱きたいと赤ちゃんを離さない方、おっかなびっくりしながら小さな手や足をそっと握っておられる方、あやすのが上手な方、母親が面倒見なさいと母親教育される方、入居者の方のそれぞれの生活史、性格、考えが如実にでてきた。
次に考察を述べる。
パーソンセンタードケアを提唱した彼が言う、介護場面でのうまくいっている12のしるし、
これらのことが赤ちゃんを通した生活の中で経験されている。
これらの2事例の活動の中で、学んだことを述べる。
第1に、認知症の方に対する偏見が残る社会に対して、“認知症とはどんな病なのか?その病とともに認知症の方がどのように生きておられるのか”をグループホームから地域に発信していくことが、私たちの使命だと思う。そのためには、グループホームでどんな生活をしているのか、どのような生活支援をすれば、その人らしく生きていけるのかを地域の方に見ていただく工夫をしていかなければならないと考える。地域運営推進会議や自治会の活用、先入観をあまり持っていない保育園児、小学生児童を対象にした認知症を理解していただく勉強会の開催や、交流を行う、グループホームの行事への家族や地域住民の参加を促すことなどを実行していきたい。また認知症の方が徘徊や妄想など心の反応で出る症状であるBPSDは、その方お一人お一人の生活史、性格、家庭環境などが大きく関わっているといわれている。各人の生活史、身体的、精神的背景を知り、個性的なそのひとらしい生活支援が必要である。また、それぞれの方が今、認知症という病のためにできなくなっている部分を見極め、そこを支援していくことが重要である。
第2に、ボランティアや地域住民というインフォーマルな社会資源を活用することは、認知症の方の生活の質を高めるものであり、情緒的な支援にも影響すると岡田は述べている。入居者にとって今何が必要であるかを常に考え、入居者の視点に立って、入居者の思いを尊重したインフォーマルな社会資源をうまく活用していかなければならないと考える。さらには、ボランティア側の自己決定を尊重することが重要だと考える。特技、趣味などをいかした様々な関わり方を柔軟に受け入れていくことで、「地域のために何かしたい」という地域住民の潜在的ニーズを発掘することができるのではないだろうか?地域住民に行動を起こしていただく、最初の一歩を促す支援が必要である。
第3に、些細な作業や思考の積み重ねである“生活”の中で、認知症の方は、作業と作業をうまくつなぎ合わせられない。また、第三者にできないことの助けをうまく求められないでいる。それらのことを察し、常に相手に関心を寄せて、ご本人の意思を尊重しながらコミュニケーションをはかることで、私たちはジョイントの役目を果たせる。また、言語に頼らず、相手に共感し、一緒にそこにいるだけでもコミュニケーションは成立する。コミュニケーションをとることで、認知症の方を、患者や障害者である以前に“一人の人間”であることを、介護者、家族、地域社会がしっかりと認識することが大切である。そのためには、
これらのことが重要だと考える。
私が関心を寄せて、認知症の方を観察しているとき、相手の方も私を観察し、信頼できるかどうかを見極めておられる。それが相互のコミュニケーションだと考える。認知症の方にとって、小さくなりつつある社会の幅を維持していくためには、地域社会とのつながりが重要であり、そのツールとして、コミュニケーションが根幹にあると考える。
グループホーム希望の家 関山真由美
2008.7.12・7.13 日本ホスピス・在宅ケア研究会 第16回千葉大会
介護福祉部会:認知症ケアPART? コミュニテイで支えよう